高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

サイケデリック・ルネッサンス

高城未来研究所【Future Report】Vol.694(10月4日)より

今週は、ジャマイカにいます。

Green Rushに続き、ここ数年取材を続けている「サイケデリック・ルネッサンス」最前線を追いかけ、ジャマイカへやってきました。

サイケデリック・ルネッサンス(Psychedelic Renaissance)とは、邪悪な薬物として追いやられていたサイケデリック物質に対する関心と研究が、21世紀に入り再び大きく復興している現象を指します。
特に、1960年代の「サイケデリック革命」以来、社会的・文化的に抑圧されていたサイケデリック物質(例えば、LSDやシロシビンなど)が、現在、医療や精神医学において有望な治療法として再評価され始めました。

1960年代、LSDやシロシビン(マジックマッシュルームに含まれる成分)などのサイケデリック物質は、意識拡張や精神的な探求、カウンターカルチャーの象徴として広く使用されていましたが、1970年代に入ると、これらの物質は多くの国で違法化され、医学的な研究もほぼ停止してしまいました。

しかし近年、特に娯楽大麻が米国やカナダで解禁されて以降、サイケデリック物質に対する科学的・医学的関心が再び高まっています。

サイケデリック物質は、うつ病、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安症、薬物依存症などの治療に対して有望な結果を示し、特に従来の薬物治療が効果を示さない患者に対して、サイケデリック物質を用いた治療法が大変効果的であると言う論文や研究結果が、今世紀に入りいくつも出されるようになりました。

また、脳の機能や神経回路の理解が進んだことにより、サイケデリック物質が脳にどのように作用するかがより深く理解され、より安全かつ効果的な使用方法を探るための臨床試験が行われています。

なかでも注目を集めるサイケデリック物質がシロシビンです。
マジックマッシュルームの幻覚物質シロシビンは、うつ病や不安障害の治療に有望であるとされており、また、末期がん患者の精神的苦痛の軽減にも大きな効果を示しています。

近年、ジャマイカでは世界初とも言えるサプリメントショップなどの棚に合法的なシロシビン注入製品が導入され、サイケデリックなウェルネス製品として、マイクロドージング用の微量摂取カプセル、手作り微量摂取ハチミツ、チョコレートバー、ビーガン用シロシビン・グミ等のラインナップが、所狭しと陳列されるようになりました。

同時に、ジャマイカでマジックマッシュルームを使用し、治療を目的としたリトリートが急増中です。医療精神ツーリズムを目的としたこれらのリトリートは、サイケデリック体験を通じて自己の内面を探求し、精神的な癒しや成長を促すことを目的としたプログラムを提供し、各施設で経験豊富なファシリテーターと呼ばれるガイドが参加者を徹底的にサポートします。
ただし、金額的に安いものではありません。
1週間の滞在で7,000USドルから10,000USドル程度のコストを要するため、国内のジャマイカ人向けではなく、米国や欧州からの精神的成長を求める人や心理的トラウマを解消したい人たちに人気です。

1960年代のサイケデリック革命がカウンターカルチャーや意識の拡張を求める運動として捉えられていたのに対し、現代のサイケデリック・ルネッサンスは、臨床試験や科学的な研究に基づいているのが大きな違いです。
2018年に出版した自著「50mm」の中でも触れましたが、医療用マジックマッシュルームや医療用MDMAの可能性が効果的であると、年々に注目が集まってきました。
米国でも一部地域では医療用マッシュルームの合法化が進み、10年前の大麻と同じように、今後サイケデリック医療は世界のあちこちで規制緩和されていくものと思われます。

昨年、ジャマイカ政府産業投資省は巨大な輸出産業へと育てるべく、サイケデリックな物質に関する研究開発を積極的に推進すると発表。政府上院議員のサファイア・ロングモア博士は、「ジャマイカは医療・スピリチュアル目的で新興のシロシビン(マジックマッシュルーム)産業を活用する大きな可能性を秘めている」と述べています。

世界的なGreen Rushに乗り遅れ、今度こそリーディング・カントリーになろうとするジャマイカ。
そう遠くないうちにサイケデリック・レゲエ・ムーブメントも始まるかもしれないな、と考える今週です。

カリブは台風シーズンも落ち着き、海風が涼しくなり、少しずつ良い季節になってきました。
シーズンは、これからです!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.694 10月4日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

川端裕人×荒木健太郎<雲を見る、雲を読む〜究極の「雲愛」対談>第3回(川端裕人)
喜怒哀楽を取り戻す意味(岩崎夏海)
執筆スタイルが完全に変わりました(高城剛)
「先生」と呼ぶか、「さん」と呼ぶか(甲野善紀)
日本保守党と飯山陽絡みで調査方としていつも思うこと(やまもといちろう)
ポストコロナ:そろそろコロナ対策の出口戦略を考える(やまもといちろう)
どうせ死ぬのになぜ生きるのか?(名越康文)
NAB2017でわかったHDRのインパクト(小寺信良)
「狭霧の彼方に」特別編 その1(甲野善紀)
幻の鳥・ドードーの来日説を裏づける『オランダ商館長の日記』(川端裕人)
ネットも電気もない東アフリカのマダガスカルで享受する「圏外力」の楽しみ(高城剛)
川の向こう側とこちら側(名越康文)
冬のビル籠りで脳と食事の関係を考える(高城剛)
夕陽的とは何か?(後編)(岩崎夏海)
ヒトの進化と食事の関係(高城剛)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ